デザイナー田中千絵さんに聞く、フォントTREEとデザインのはなし

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デザイナー、イラストレーター、二児の母などの様々な顔を持ち、多方面で活躍されている田中千絵さん。かなバンクシリーズのフォントTREEのデザインも手がけていただき、ご自身の制作物でもTREEを使っていただいています。今回のインタビューでは、TREE制作のきっかけやその背景と、日頃デザインをする際に心がけていることなどのお話を伺いました。

田中 千絵 / Tanaka Chie

東京都出身 デザイナー。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。在学中から伯父・田中一光のもとでデザインを学ぶ。TSUMORI CHISATO青山店やBEAMSなど独自の世界観により展開した手作り感のあるウィンドウ・インスタレーション作品が話題に。活動は多岐にわたり、グラフィックデザイン、書籍の装幀、装画など幅広く手がける。木の枝をモチーフにした書体「ツリーフォント」も発表。2010年より、ピンクリボンデザイン大賞審査員。2016年4月と6月に個展「紙の絵展」を開催。
http://chietanaka.tumblr.com/

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展覧会用に自主制作したアドベントカレンダーボックスに、自分でデザインした数字を使ったことがきっかけ

――かなバンクシリーズのフォントTREEが誕生した最初のきっかけをお聞かせいただけますか

一番最初にTREEを作るきっかけとなったのは、荻窪の6次元で開催した個展で発表した作品「アドベントカレンダーボックス」です。クリスマスまで毎日順番に一箱ずつ開けていくというボックスなんですが、その表の数字に自分でデザインした数字を使いました。クリスマスツリーやブッシュドノエルなどのイメージから、木の枝をモチーフにして文字を作ることができたらおもしろそうだなと思い、枝を探してきてイラストレーターでアウトラインをとって、専用の数字をデザインしました。その展示をタイプバンクのタイプデザイナーさんが見に来てくださって、これをフォントにしたらおもしろいのではという話になったのが最初でした。

3 ▲きっかけとなったアドベントカレンダーボックス。25人の方々がそれぞれ自由な形のメッセージを詰め込んだ25個の箱を、クリスマスまで毎日ひとつずつ開けていきます。表面にはTREEの元となった木の枝の形をした数字が施されています

自然の中で生まれたチャーミングな形や雰囲気を見つけて活かしていく

――実際の制作はどのような手順で進められたのですか

外に出て色々な形の枝を集めるところから始めました。枝によっては自然から生まれる独特の愛嬌があったり、自分では思いつかないおかしな線を持っていたりするので、良い形を探るということがとても楽しかったです。作る文字が複雑だとやっぱり形にするのが難しかったり、シンプルな線だと作りやすかったりするのはもちろんありますが、「え」のように(下図参照)一箇所折るだけでひらがなの形が生まれたりする傑作な出来事もあったりして、新しい発見がたくさんありました。自然の中で生まれたチャーミングな雰囲気を見つけて活かしていくという作り方は、一種の私らしいデザインでもあるかなと思います。

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16_t2 ▲TREEの展開は4種類。白抜きの「しろ」、黒ベタ塗りの「くろ」、斜めストライプの「しましま」、アルファベットとイラストが入った「otanosimi」があります。「otanosimi」は、しろ・くろ・しましまがセットになった「TREE3書体パック」のみに収録されています。

――文字だけではなくアイコン的な絵文字を組み合わせることで、より田中千絵さんらしい世界観が広がっていますね

otanosimiには、アドベントカレンダーボックスに使用した元々の形に近いデザインの英数字と、イラストをいくつか入れています。文字とイラストの中間みたいな存在として、自由に組み合わせて四季を楽しむような感覚で使っていただけると思います。

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楽しい、やさしい、そんなポジティブなエッセンスを加えたい時にTREEをよく使います

――実際にお仕事でもTREEを使っていただいていますよね

最近だと、立川市で進めている「ウエディングシティ立川推進事業」のプロジェクトの一つ、Tama Wedding BoxにTREEを使用しました。結婚式の準備って初めてのことが多くて、何から始めたら良いのかわからないという方も多いと思うんですよね。これは結婚式までに必要なことが確認できるような仕組みになっていて、準備そのものも楽しく進められるようにデザインの工夫をたくさん詰め込みました。多摩は自然豊かな緑あふれる地域なこともあり、ナチュラルな印象のTREEがとてもぴったり合いました。結婚式では他にもペーパーアイテムがたくさん必要になると思うので、TREEを使ってオリジナルの席札や招待状などを作るのもオススメです。

weddingBook1 ▲必要なことが確認できて、アルバムにもなる特別なブック。森や教会をイメージさせるシルエットにカッティングされています。繊細な加工は福永紙工さんが根気良く取り組んで下さいました

weddingBook2 ▲紙に刺繍を施すなど、特別感たっぷりな工夫がたくさん詰まっています

また、PETIT BATEAU様のホームページのDIYコンテンツでは、大人も子どもも簡単に作ることができるDIYキットをデザインしました。「お正月」には“ぽち袋”を、「ひな祭り」には“あられ”を入れるお菓子入れを企画して、どちらもブランドのロゴをイメージできるようなヨットをモチーフにした形にしています。PDFの型紙ガイドだけではなく、例えば紙を変えるだけで雰囲気を変えることができたり、バリエーションが楽しめたり、作り手によってオリジナルのアイデアが活かせるような発展的な提案を含む内容にしました。

12▲子どもから大人まで誰にでも作ることができるDIYキット。HPからダウンロードすることができます。こちらのタイトル部分にもTREEを使っています

17_t▲かわいいぽち袋や、ヨットの形をしたお菓子入れを誰でも簡単に作ることができます

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受け手が手にした時点で幸福を感じるところまでが、デザインの仕事

――特に決まったジャンルがなく本当に様々なものを手がけていらっしゃいますが、デザインをする時に心がけていることはありますか

そうですね、日々新しい事をさせていただいています。並行しているプロジェクトもそれぞれ全く違うので、いつも新鮮な気持ちです。お仕事のご依頼をいただくアイテムは様々ですが、固くない雰囲気のものであったり、女性らしい、やわらかい、親しみやすい、おいしそう、というような共通のキーワードでお願いされることは多いですね。デザイナーの方にもそれぞれ得意分野があると思いますが、私の場合には色や形と、先ほどのキーワードのようなイメージも大きいと思うので、自分の得意を活かしたデザインを目指して制作しています。こういう形があったらちょっとおもしろいかなとか、こうしたらちょっとかわいいかなとか、ほんの少しポジティブな“違和感”が残るような仕掛けの工夫を、できる限りたくさん仕掛けるようにしています。

受け手が手にした時点での幸福感までが、デザインの一種の完成形だと思うんですよね。自分がデザインしたところが完成じゃなくて、それを使ってくれた人にとってもいろんな使い方があると思うし、その中で「これ買ってよかったな」「これ好きだな」とか、手に入れた事で幸せを感じてもらえるところが重要だと思っています。私自身は、お茶の間と商品やプロジェクトとの間で架け橋のような存在になれるように、できるだけ色々な人に使い方を知ってもらうための工夫を積極的に発信するようにしています。

 

4 ▲手がけられているグッズのうちのひとつ、TREEを使ったキーホルダーなど。アクリル板をレーザーカッターでカットしています

5▲TREEを使った陶器のアイテムもあります

6▲スカーフのデザインにもTREEを使っています、木のモチーフがナチュラルなイラストともよく合います

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子どもたちの良さをたくさん見つけてあげて、色々な選択肢を伝えたい

――ワークショップなども積極的に活動されていますね

世代を問わず色々な方を迎えてワークショップを行っていますが、特に子どもを対象にしている回の時には、作ることっておもしろいなと感じてもらえる入り口を作ることを大事にしています。小さい頃の記憶ってふとした時に思い出したり、なぜか覚えているものってありますよね。少し大きくなってから、そういえばあの時あんな経験したなとか、あれを作ってみた記憶があるからこれができたんだな、とか。そういう「なんだかわからないけど楽しかったね」というポジティブな思い出や体験を残してあげたいと思って活動しています。

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  • Photo by Yui Sukeguchi / event: マンモススクール@阪急西宮ガーデンズ
▲ワークショップ中のひとコマ。子どもたちみんなが説明を真剣に聞いています

ワークショップの時には、子どもたちひとりひとりをよく見てそれぞれの良さを発見してあげるということが私の一番の仕事で、まだ不器用なだけでうまく出せていないところを見つけて、こういうところが素敵だよと、しっかり伝えてあげるようにしています。子どもの頃に知らない大人に言われたことって結構覚えていることもありますよね。その子にとって何かの時に自信につながる記憶になるといいなと思っています。

例えばワークショップ中に「先生この紙はなんですか?」と聞いてくれる子もたくさんいて、説明を少ししてあげると、じゃあこんな使い方もできるねとアイデアが出せるようになったり、そんな紙があるんですかと大人も子どもも驚いて新しい知識になったり。そういった些細な経験で世界が広がることもあると思うので、そんな経験をたくさん重ねていただけたらうれしいですね。

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  • Photo by Yui Sukeguchi / event: マンモススクール@阪急西宮ガーデンズ
▲作品が完成!子どもたちひとりひとりの世界観が生き生きと表現された、素敵な仕上がりになりました


手作りのペーパーアイテムで生まれるコミュニケーションを大切にしています

――手がけていらっしゃるデザインの多くが、紙にこだわりがある印象がありますが、意識はされているのでしょうか

紙については、子どもの頃から触れる機会が多かったことが大きいのかなと思います。父がグラフィックデザイナーだったので、家に型落ちの紙の見本帳がいつも置いてあったんです。子どもの頃はどの紙が貴重だとか価格の高い安いなどはまったくわからないのですが、純粋に切ったり貼ったりただただ触っている中で、この種類は厚みがあるんだなとか、この種類ははさみで切りやすいなとか、子どもの視点で紙の性質を知ったように思います。大人になってからも、旅行から帰ってくると気付いたらバッグの中が紙のアイテムだらけだったりして、そういうことが重なって私自身も紙が好きなんだなと改めて感じるようになりました。

今でも封筒は自分で作って渡したり、紙の切り貼りを組み合わせた手紙を作ったり、色々なものを手作りしています。デザインの話にも共通しますが、人の手を感じるちょっとした“ズレ”とか“違和感”って記憶に残ると思うんですね。その記憶に残った印象がポジティブできれいだったり、懐かしさだったり、やさしさだったりすると、ふとした時に日常の中に特別な瞬間が生まれて、心が通ったり、気持ちが豊かになったり、前向きなコミュニケーションが生まれると思います。

7_t2 ▲田中千絵さん初の著書「紙と日々、つながりを手作りする楽しみ」(キノブックス刊)。誰にとっても身近な存在である紙を使って簡単に作れるペーパーグッズの作り方と、それを使ってつながる新しいコミュニケーションのかたちを紹介しています

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自由なアイデアでびっくりさせてほしい

――これまで手がけられたデザインがどれも共通してコミュニケーションを生み出してきたように、TREEの持つ親しみやすさやかわいらしさは、普段フォントに触れる機会があまりない方にとっても接点のような存在になれるのではと思います

そうですね、お子さんがいる方や手作りが好きな方など、色々な方にもっと気軽に使ってもらえると良いですね。本当に使い方に制限は全く考えていなくて、年賀状や学校行事はもちろん、名前を印刷してネームプレートにしたりコラージュに使ったり、生活の色々な場面で自由に使って欲しいです。使ってくださる人それぞれの個性があると思うので、そういった面を自由にたくさん出してもらえると嬉しいです。皆が驚くような使い方をぜひしてもらいたいですね、私もびっくりしたいです。

田中千絵さん、お忙しいところありがとうございました!


関連リンク

田中千絵さん Tumblr|chietanaka
田中千絵さんブログ|chie tanaka blog
紙と日々、つながりを手作りする楽しみ

お知らせ

<BOOK BOX>田中千絵フェア 「紙の森」
期間:2017年6月6日(火)~7月2日(日)
場所:代官山蔦屋書店2号館 1階 ブックフロアにて開催
詳細URL:http://real.tsite.jp/daikanyama/event/2017/05/book-box-6.html

代官山蔦屋書店の展示スペース<BOOK BOX>にて、田中千絵さんのフェア「紙の森」が開催されます。実際に作品をご覧頂ける貴重な機会ですので、ぜひ期間中に足をお運び下さい。


*2017年7月末日を持ちましてかなバンク製品の販売を休止いたしました、今後のお問い合わせ先についてはこちらのお知らせをご確認ください。


10名様にポストカードプレゼント!

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田中千絵さんインタビューに伴い、下記アンケートにご回答下さった方の中から抽選で10名様に、田中千絵さんデザインのポストカードセットをプレゼントいたします。田中千絵さんが驚くようなTREEの使い方もぜひお知らせください。下記6つの項目をメール本文にご記入の上、support@typebank.co.jpまでお送り下さい。当選者の方には発送を持ってかえさせていただきます。
*件名に「TREEインタビュー」とご記入ください

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●この記事に関するお問合せ
株式会社タイプバンク
Tel. 03-6265-3641/Fax. 03-6265-3643
〒162-0822 東京都新宿区下宮比町2-28 飯田橋ハイタウン827
※製品の仕様などは、リリース時に予告なく変更する場合があります。